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2019.1.7

柳家さん喬師匠をお迎えして①

<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>

 アハハハ。クスクス。対照的な笑い声が響き渡る。2019年の初笑い。今回、足を運んでくださったのは、噺家の柳家さん喬師匠です。LPGA会長・小林浩美が書店で目にした一冊の本が縁で、LPGAスペシャル対談が実現。ところで、着物姿で日本女子プロゴルフ協会をおたずねいただいたのは、おそらく師匠が初めて…。

 さん喬「こんにちは。よろしくお願いいたします。私、噺をすることが職業ですけど、対談はほとんど、お受けしたことがない。どうしてかといってもこまりますけどね。でも、今回はお相手が、小林浩美さんということでふたつ返事でした。実は、私、小林さんのファン。日本はもとより、アメリカツアーでもプレーしていらした。当時から、テレビ放送を拝見して、いつもよくお笑いになる。勝負の世界で生きている女性が、これほどうれしそうに笑えるものかなぁ。感心していました。けさも、出がけにうちのカミさんが、いいわねぇ。いいわねぇと」

 小林「お越しいただきありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いいたします。師匠へお話をうかがいたいと思ったのは、昨年の秋に出版された『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』を拝読したことがきっかけです。女子プロゴルフ界は今、20歳前後の若い選手が大活躍。改めて、人を育てるということはどういうことだろうか、と考えさせられた。そんな時、師匠のご本を目の当たりにしたわけです。落語家の皆さんと、女子プロが共通することは、形の上で、どちらも引退がない職業だと気がつきました」

 さん喬「私には、11人の弟子がいます」

 小林「七番弟子の小平太さんが去年の9月、真打へ昇進されました。さぞかし、師匠もお忙しかったでしょう」

 さん喬「私たちの世界は、ご存知の通り相撲や、日本舞踊などとは違い、弟子をとっても、お金をもらうようなことはしません。また、弟子へ仕事を依頼しても、出演料の何パーセントをいただくとか、そういったこともなし。弟子をとることは自分の財産。一種のステイタスのようなものです。一般で親子の場合は、ある年齢で親離れをしますけど、噺家の世界は死ぬまで師匠から離れることはない。師匠は弟子に関して、すべての責任を負わなければなりません」

 小林「お弟子さんは、成人なさっているわけでしょう。どういうところで、そうなるのかをおうかがいしたいです」

 さん喬「弟子が真打になった。その弟子が、ある師匠に対して、大変ご無礼をしたとします。一般では、大人同士ですから2人で解決すればとなりますけど、私たちは違う。師匠がおわびにうかがい、許しを請う。それが当たり前。たとえ真打でも、もう独立だよ、ではない。死ぬまでかかわりをもつことが噺家の世界。私たちは、利を得るために弟子をとるのではない。ただ、弟子たちが成長し、おたくのお弟子さん、とてもいいですねといわれることがある。そういったことが自分の宝物でしょうか。弟子は師匠の名を残すことができる。いい方へも、そうでない方へも残していく…」

 小林「それは大変。いつも自分たちが、よほどピシッとしていなければつとまりませんね。師匠がお弟子さんに対して、もっとも気を配っていることをお聞かせください」

 さん喬「怒らないことでしょうか。感情的に怒っても得るものはありません。怒りは、人の間違いを直してやろうという気持ちではないですから。てめぇ、何でこんなことをしやがった、と怒鳴りつける。これでは、いわれる方も素直にとれない。だから、私はあなたの過ちをゆるしてはいないけど、直すために…。そんな意識をもって対峙してまいりました。間違いかもしれないけど、現代はとても人間がひ弱になっていると私は感じる。わずかひとことで相手が殻へ閉じこもるなど、いろいろなことを耳にいたします。となれば、相手を諭すことが大切でしょう。叱って物事を直させることは、お互いにストレスが溜まりますから」

 小林「忍耐と根気がいりますね。お言葉の端々からにじみ出ていました。とはいえ、そうなさるのは、その人を成長させたいという根底があるからでしょう」

 さん喬「以前、(小林)会長が人を育てるとは相手を理解することだ。そうお話しているのをうかがったことがございます。なるほどなぁと、思った。相手のことがわからず、私を理解させようとしては、いけない。いつも肝に銘じていること。それはどんな人にも同じでしょう。私たち噺家は、自分の弟子だけにけいこをつけるわけではありませんから」

 小林「ご本を読んで、それが意外でした。エッと思ったことです。頼まれれば、誰にでも−ということですね。私の想像をちょっと超えていた。同時に、心へとても響いたのです。日本の文化の継承だからと、師匠はお書きになっていた。大義のためにやられているのですね」

 さん喬「それほど、大それたことをしているわけではありません。私が伝えていきたいことは、基本。たとえば、ラーメンにも基本があります。私の子どもの頃は、なると、ほうれん草、のりとしなちく、チャーシューがのっていた。しかし、現代のラーメンといえば、背脂がどうだとか、そういうことがラーメンの基本になってきている。それはかまわないけど、昔のラーメンの基本を知ったうえで、あなたたちが背脂を入れても、チャーシューを抜いてもいい。私の噺のけいこは、そういう感じでしょうか。黄色の桜があっても不思議ではない時代。だけど、ソメイヨシノでしたら、薄いピンクの花ですよ。これだけを私は伝えている。幹を伝えてから、そこにバラの花を咲かせても自由。本人しだいです。どう変化させていくのかは、ある意味、個人の才能かもしれない」

 小林「なるほど、基本があるから応用が利くわけですね。そうでなければ、あらゆることがとり散らかっていく。収拾がつきませんね」

 さん喬「基本がないものに亜流は考えられない。亜流が先行してから、基本は何か−と探すのは不可能に近いと思います」                         =つづく


柳家さん喬(やなぎや・さんきょう) 1948年東京・墨田区出身。67年、五代目柳家小さんへ入門。前座名「小稲」。72年、二つ目に昇進し「さん喬」。81年、真打昇進。84年、国立演芸場金賞、2013年、芸術選奨 文部科学大臣賞(大衆芸能部門)、14年、国際交流基金賞ほか、受賞は多数。16年には文化庁文化交流使として米国、カナダを回る。17年、紫綬褒章受章。06年から落語協会常任理事。

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