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2019.1.10

柳家さん喬師匠をお迎えして②

<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>

 2019年は、ゴルフ界にとってより大事な1年。代表争いなど、2020年東京オリンピックを控えているからです。一方で、オリンピックといえば落語界も無縁ではありません。大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』の語りはビートたけし演じる五代目古今亭志ん生。その半生もドラマの中では紹介されるということです。落語も今年、ブームの予感が−。

 さん喬「最近、寄席には20代のお客さまがたくさんいらっしゃるようになりました。また、客席には高校生のお客さまも。自慢するわけではありませんけど、高校生からファンレターを頂戴いたします」

 小林「高校生の心へ落語がヒットする。その理由をどうお考えでしょうか」

 さん喬「感性をおもちだということに気がつくからでしょうか。自分で噺を聴いて、心でシーンをつくりあげる能力があると気がついたときは、とても楽しい。絵にする楽しみを発見−ということでしょうか」

 小林「絵になるようなお話の仕方を、師匠はなさります。私も絵が浮かんできました。落語は奥深い。とはいえ、全国で1000人近くの噺家さんがいらっしゃるそうですね。芸を究めると同時に、切磋琢磨で生き残ることも人気商売ですから大変でしょう」

 さん喬「ゴルフも落語もフェアウェイを行きたい…。ただ、プロゴルファーの皆さんは、他の選手の前へ出ることで評価を受けるものでしょう。でも、私たちにはそれがない。評価するのは、お客さま」

 小林「えっ、うそでしょう。師匠」

 さん喬「お客さまの好き好き。どんな噺家にも、ひいきやファンがございます。プロゴルファーは強いことが魅力でしょうけど、噺家は強いことが大前提ではない。お客さまのお好み。そこは、絵の世界に似ていると思います。ある1枚の絵を鑑賞し、私には、とうてい理解不能だと思っても、別の方は素晴らしいと理解をする。落語も人それぞれの見方、聞き方がございます」

 小林「演じ手と受け手。ともに個性ということですね」

 さん喬「芸の世界は不思議なもので、ウイークポイントが魅力になることもある。活舌の悪い噺家がいるとします。ところが、何をいっているかわからないところがおもしろい。そんなお客さまもいらっしゃる。(五代目の)志ん生師匠。お若い頃は、大変に活舌がはっきりした威勢のいい噺家だったそうです。ところが、私が知っている志ん生師匠は、大病を患った後で、どうも、うーん、きょうは…。もごもごと、そんな感じでした。ただ、ひいきのお客さまにとって、これがたまらない。魅力ですよ。何もしゃべらなくていい。高座で座っているだけでも、といったお客さまがたくさんいらっしゃいました。お亡くなりになった後も、大変な人気がございます。ウイークポイントを意識するのではなく、長所を伸ばしてうまくなりたい。私が芸人として、常にもっていなければならない礎です」


 小林「(第1回で)師匠は、基本の重要性を強調していらっしゃいました。自分が迷った時、ゴルフのスイングもそうですけど、基本ができていなければ戻ることができません。何もかも、ぐちゃぐちゃになってしまう。基本へ立ち返ることで、自分の姿を取り戻す−と私は経験から学びました」


 さん喬「芸と同じですね。ひとことで基本に戻る-とはいいますけど、これはものすごく難しい」

 小林「強くなる選手、強い選手は何度も何度も基本を踏んでいく。すごい人ほど基本に忠実ということを、アメリカツアーで痛感しました」

 さん喬「会長は、日本は当然のこと。世界の舞台で、何度も優勝を経験していらっしゃる。ご自身の長所と短所をよくおわかりだから…。私はそう考えました」

 小林「行きつくまでが、大変な道のり…。自分を良くしたいと思えば、まず、悪い所を直そうとします。だけど、そういう過程でいい所を忘れてしまう。ストロングポイントがなくなってくる。いい所をガンガン伸ばして、悪い所が薄らいでいくのが理想ですよ。ずっとゴルフを続けて得た、私の結論のひとつ」

 さん喬「ゴルフは一時に、2つを直すなという話をうかがったことがあります」

 小林「スイングは1秒もかかりません。アッという間。アハハハ…」

 さん喬「確かにそうですね。教わったことを瞬時に2つ、3つとできるわけがない。芸もそうです。たとえば、私が弟子のここと、ここと、ここを直してやろうと思う。でも、ひとつずつ直さなければ身につくものではない。まず、ひとつ直してあとは自分で考えろと段階を踏んでいく。そうやっているうちに自分の間などができあがる。ですから、プロゴルファーの皆さんが1秒の間に行う作業に私、とても感服するのですよ」

 小林「プロゴルファーは訓練。訓練です。ルーティンへ入ったら、機械のように打つ。一切、感情を入れません。そうでなければ、プレッシャーがかかった局面で影響が出る。勝負を左右してしまうからです。スイングは機械のようにコツコツコツと。同じ秒数と、同じ間がポイントです」

 さん喬「へぇー。奥が深い」

 小林「機械にならないといけないのは、迷いが生じると体が反応してしまうからです。感情を殺して1打へ臨む。だから、ルーティンを踏むわけですね」

 さん喬「私どもには噺百遍ですね。ひとつの噺を百遍やって、初めてスタートになる。百遍やって完成ではない。私たちも機械のようにおしゃべりをして初めて、見いだせたものや、出てきたものが確かにありました」

 小林「ピューという感性は、ガーッと養う。それこそ真剣に行わなければ出てこないものだと私は思います」                             =つづく


柳家さん喬(やなぎや・さんきょう) 1948年東京・墨田区出身。67年、五代目柳家小さんへ入門。前座名「小稲」。72年、二つ目に昇進し「さん喬」。81年、真打昇進。84年、国立演芸場金賞、2013年、芸術選奨 文部科学大臣賞(大衆芸能部門)、14年、国際交流基金賞ほか、受賞は多数。16年には文化庁文化交流使として米国、カナダを回る。17年、紫綬褒章受章。06年から落語協会常任理事。

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