2023.2.28
プラスワン2023~スポーツマンシップを考える
JLPGAツアー2023シーズンが3月2日、開幕。今季はいったいどんなドラマが生まれるのか。興味がつきない。しかし、間違いなくいえることは各大会、選手が主役であり、たったひとりの優勝者を目指し、今オフも想像できないような努力を重ねたプロセスがあればこそ、である。
その上でちょっと考えることがあった。多くのファンに感動を与えるものはスポーツマンシップという言葉に置き換えられる。ところが、スポーツマンシップという言葉は誰しも、わかっているようでうまく説明をすることができないことに気がつく。今回、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会代表理事・中村聡宏さんから話をうかがった。
――スポーツマンシップとは
「多くの方がスポーツマンシップという言葉を耳にする最初は、おそらく大会の選手宣誓でしょう。つまり、スポーツマンシップにのっとり正々堂々と戦うことを誓います-という、あの儀式かもしれない。でも、スポーツマンシップにのっとってとは、いったい…。おそらく説明をできる人はごく少ないと思います。形骸化していて、誰も説明できないもの。選手宣誓は形式的なイベント化したといえるでしょう。その中で、宣誓を定型文で行っているのがオリンピック。開会式で開催国の選手、審判、指導者や役員の代表が宣誓を行っている。もちろん、先の東京オリンピックでも。ただし、それを聞いていた日本の方々、世界中の方がスポーツマンシップ、オリンピズムを理解していたかといいますと、実情はどうでしょうか。私たちは、スポーツマンシップを言語化し一般の皆さんへ普及していこうと、2018年から取り組みをはじめました。そうはいっても、世界でスポーツマンシップについて共通の理解がされているわけでもありません。参考までに英英辞典(1969年版POCKET OXFORD DICTIONARY)でスポーツマンを引くとグッドフェローとだけ記されている。良き仲間というわけです」
――そこで、3つのワードを定義した
「私たちは3つの気持ちを備えている人をスポーツマンと定義した。①尊重 ②勇気 ③覚悟をバランスよく育てることが必要です。①尊重は自分でコントロールできないもの。ルール、審判、対戦相手、気候なども含まれる。それらを受け入れながら、ベストをつくすことがコントロールできないものへの尊重の精神となるわけです」
「②勇気はすなわち、自分との戦い。特にスポーツでは考えるだけでなく、アクションを起こさなければ、プレーが成立しません。己が己を律することを形にすることが大事です。そうして、自身を磨くエンジンが必要。自己研鑽につながる行動のエンジンとしての勇気が大切です」
「③覚悟は、いろいろな困難があるけど、それらをすべて受け入れる度量です。スポーツをして、もっとも愉しいことは勝つことはもちろん。結果が出た時でしょう。そうはいっても、そこまでのプロセスには血のにじむような練習があり、ハードな苦しいトレーニング、またけがの苦しみまで愉しみつくすという覚悟が必要。ゴルフのような個人スポーツではたとえば、100人が出場するとして、勝者は1人のわけですから、100分の1の確率で得るものです。しかも、ただ勝てばいいというわけではありません。こういう難しいことへ向き合う時、他者を尊重し、自分も大事に-を両立させる。もうひとつ、覚悟を加え3つのワードをバランスよく育てることが必要です。同じ場所へ集い、全員がゲームを愉しむことができればグッドゲーム。気持ちの良い空間が完成する。優勝者は当然として、40位の人も同じ気持ちを持ち合わせていれば、どこをとっても見どころとなるわけです」
<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
――JLPGAツアーの魅力
「ツアーを拝見していると、すごく気持ちが良くなる。試合は1打をめぐる戦いにもかかわらず、ライバルがいいプレーをすると、同組の選手が拍手をするなど、自然な感じで行っている。選手の皆さんからすれば当然、ささいなことです、といわれるかもしれません。でも、私たちからすればそういうところが目に焼き付き、心へ残る。ああいった姿勢は、試合だからできるというものではない。日常生活から心がけなければできないものだと思います」
「女子プロゴルファーから学ばせていただくことで最も大きいことは、継続してライバルをたたえる姿勢。それから、ワンショットにリスペクトの精神です。トーナメントは一緒にプレーするメンバーと勝敗を競うわけですけど、お互いが気持ちよくプレーできる環境をつくっていけるように努力している。私どもが感心するポイントです」
――スポーツマンシップのトップ・オブ・トップとは
「先ほど、お話した3つのワードのバランスが整い、しかもいずれのワードもこぢんまりしないことが条件。わかりやすい例として、エンゼルス・大谷翔平選手をあげておきましょう。自分のことは手を抜かず、相手を尊重している。そうしたことが表現や態度にあらわれている。だから皆さんから、愛されるわけです」
――愛される選手になるために
「他人に対して、スポーツマンシップを振りかざしてしまうと、かえってハラスメントのようなになってしまうかもしれません。自分を律する概念として考えてほしいと思います。自分さえよければいい。それはいくら競争が激しい社会でも良し、とされないというところにヒントがある。プロフェッショナルである以上、いろいろな方から応援していただけるか。お互いによく思いあっていくような雰囲気がつくれるか。でも、個性もなくしてはいけない。いろいろな個性を尊重していくことをセットで求められる。ちなみに、個性を発揮することも勇気だと思います」
<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
――ゴルフの魅力について
「私もプレーをします。でも、プロの試合のように競い合っているわけではありません。だけど、すごく愉しい。私のようなスタイルのゴルファーは、一緒にプレーする3人をどうやって喜ばそうか、と考える。どれほど、この日が愉しくなるかが大きい。たとえば、この人とプレーするといいスコアが出る-など相性のような話を聞くことが結構、多い。これって、最大のほめ言葉だと思います」
「ギャラリーとして、ひとりの選手を18ホール追うことがあります。見ているだけで気持ちがよくなるナイスプレーがトーナメントのだいご味でしょう。しかし、すべてがそういうわけではありません。たとえ、うまくはいかなくてもくさらない選手がいます。そういう姿を拝見すると、こちらの心が洗われる。そんな選手がひとりでもふたりでも増えていけば、ますますファンから選ばれる競技になっていく。私はそう思います」
(構成=青木 政司)
なかむら・あきひろ 一般社団法人日本スポーツマンシップ協会代表理事、千葉商科大学サービス創造学部准教授
1973年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業。印刷会社へ入社し、多分野のイベントなどの企画、運営等へ参加。独立行政法人・経済産業研究所ではサッカーワールドカップ開催都市事後調査、Jリーグ発足時の精度設計の調査研究プロジェクトなどに参画した。15年、千葉商科大学サービス創造学部に着任。18年、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会の代表理事へ就任。主な著書に『スポーツマンシップバイブル』(2020年、東洋館出版社)。
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