プレーオフで「奇跡」の第3打が炸裂　蛭田みな美が万感の初優勝

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞

　JLPGAツアー2023シーズン第24戦『CAT Ladies 2023』（賞金総額6,000万円、優勝賞金1,080万円）大会最終日が8月20日、神奈川県箱根町・大箱根カントリークラブ（6,638ヤード/パー72）で行われ、26歳の蛭田みな美が西郷真央とのプレーオフを制し、通算13アンダーで悲願の初優勝を果たした。桑木志帆が1打差の通算12アンダーで3位。20歳の内田ことこ、竹田麗央の2人が通算11アンダー、4位タイで終えた。
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《グリーン＝スティンプ：12 1/4フィート　コンパクション：22.5mm》

　蛭田みな美の初優勝は波乱万丈だった。同組で回る2位の西郷真央に1打差をつけて迎えた、正規の最終18番・パー5。西郷がパーで先にホールアウトし、蛭田は2メートルのバーディーパットを残していた。ここから2打をかけても優勝。周囲の誰もが、ここで決着がつくと思っていた。

　ところが、蛭田はこの1打を前に平常心を失う。「どういう気持ちで打てばいいのか、わからなくなってしまいました」。2016年7月のプロテスト合格以降、8年目にして初優勝が目前に迫っていたのだから、かつてない緊張に包まれたのも、無理はなかったかもしれない。腹をくくれないまま「冷静にタッチを合わせていくべきだったのに、入れにいってしまいました」と言うパッティングは、80センチオーバー。返しのパーパットも、カップを半周してリップアウトし、まさかのプレーオフにもつれ込んだ。

　しかし、蛭田の成長ぶりは、この後に実証された。十中八九手にしていた優勝をつかみ損ねたにも関わらず、落ち込む素振りは見せず、苦笑を浮かべるだけだった。キャディーを務める父・宏さんから「全然、大丈夫」と声をかけられ、蛭田自身「もうしょうがない」と気持ちを切り替えた。

　同じ18番・パー5で行われたプレーオフの1ホール目にも、絶体絶命のピンチに追い込まれた。ティーショットを右ラフの木の根元に打ち込み、第2打も距離が出ず、ラフからピンまで157ヤードを残した。対照的に相手の西郷は着実にフェアウェイを通ってグリーンに近づいており、劣勢は明らかだった。しかし、7Iでの第3打が起死回生のショットとなる。

　「（グリーンに）乗ればいいというレベル。寄せるどころではありませんでした」というつもりが、ピンへ向かってグリーンを転がり、約1メートルの位置にピタリ。「奇跡でした」と笑顔が弾けた。一方、西郷のアプローチはピン手前2メートルにとどまり、バーディーパットを惜しくも外して形勢逆転。蛭田は「奇しくも正規の18番の時と同じラインでした」と言うバーディーパットを、今度はしっかり打って沈め、一度手放した優勝を取り戻したのだった。

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞

　うれし涙が頬をつたった。福島県東白川郡出身で、学法石川高時代には世界ジュニア選手権で永井花奈と組み優勝、日本女子アマチュアゴルフ選手権でも優勝と輝かしい実績を誇ったが、プロ転向後は伸び悩んだ。1歳下の黄金世代の選手たちが台頭とする中、「2年前からはパッティングがイップスのような状態になってしまい、自分は勝てないまま終わってしまうのかなと考えていました」と明かす。

　ターニングポイントは、昨季終了後のQTにあった。「（それまでは）自分に対して怒りながらプレーしていたのですが、ショートパットを笑いながら打つようにしました。最初は不自然でしたが、表情を緩めると、全身の緊張も緩む気がしました」とうなずく。プレー中にも穏やかな表情をたたえているように見える小祝さくらの姿を参考に、自身もラウンドを通して笑顔を絶やさないようにした。「今は、見ていて癒されるプロになることが目標です」と口元を綻ばせる。

　昨年12月に契約を結んだトレーナーとの出会いも絶妙だった。瞬間的にパワーを爆発させる体力、技術が備わり、父の宏さんは「ドライバーの飛距離が10-15ヤード伸び、フェアウェイキープ率が上がったのは、そのお陰だと思います」と分析している。

　「今回はラッキーでした。次はラッキーだけではない優勝をしたいです」と謙遜する蛭田。初戴冠の鍵は笑顔だった。以前とは全く違う表情でクラブを握る26歳が、今度は2度目の優勝へ向かって歩を進める。

（JLPGAオフィシャルライター・宮脇 廣久）

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞