桐林宏光　幸せのゴルフ②

　ゴルフには正解がないように、指導法にも正解はなし。ひたすら精進するだけだ。13日、JLPGAジュニアゴルフコーチサミットに参加した。早朝からのロングランにもかかわらず、常に目が輝いている。

「教えているジュニアたちへ、クラスでゴルフを何人ぐらい? と質問をすると、私ひとりかもしれない。そんな答え。まだまだ野球やサッカーなどが多数を占めている。将来のゴルフ界のために、もっとゴルフを普及していかないといけません。LPGAアワードの表彰式へ出席して感じたのは、20歳ぐらいの女子が賞金1億円を稼ぐ。これほど、夢のあるスポーツは他にありませんね」。しみじみと語った。

　ジュニアから最年長は83歳まで、幅広い年齢層を指導する。技術だけではない。メンタルまで。これが桐林メソッドだ。人生の危機からヒントを得た。「アトピーで半年ぐらい、自宅療養していたのが、37歳。ほぼ寝たきりでした。家から出られないし、読書などをして過ごす毎日。このまま終わってしまうのかなぁ。そんな感じ。しかし、ちょっとしたことから筑波大の大学院受験の告知が目に留まった。みつけたのは、7月。ところが、受験は10月です。間に合うかと少しだけ迷ったけど、どうせ寝たり起きたりの毎日だから、必死に勉強しました。過去の問題集などをたくさん買ってきて読み漁り、時間がないから、いうところの山をかけました。当たりましたよ。何とか合格。その時、運命を感じた」。

　修士課程は2年間だが、あえて1年間の休学を選択する。これも強い本人のこだわりだった。読み方は同じ、ひろみでも裕美から、宏光へ改名を決意。「40歳を機に、改名することにした。ただ、協会の手続きはスムーズでも、修士論文では、戸籍上の名前にしなければならない。永遠に残るわけです。自分で手続きを進めたから、思っていたより時間と手間がかかった」という。何事も徹底しなければすまない人柄を表すようなエピソードだ。37歳を迎えてから、迷いは吹き飛ぶ。

　十人十色といわれる。当然のように、指導法はひとつではおさまらない。ラウンドレッスンをメーンとしているのは、そのためだ。18ホールを自身も他の3人とプレー。動画撮影をしながら、的確なアドバイスを添える。「最初、目標スコアの設定を行います。たとえば、78を目標にしたとする。でも、アクシデントはつきもの。もしかしたら、プレー中に足がつってしまうことがあるかもしれません。ということで、目標をもうひとつ設定します。78と、どんなに調子が悪くても90以内でホールアウトする」。少し、口元をほころばせ続けた。

「仮に上の目標が無理だとあきらめてしまったら、本当にプレーはおもしろくない。ところが、下の目標を設定することで、90以内を達成すると、プライドが維持できるわけです。底力をあげる。また、ラウンド中は自身の基準で1ホール毎のデキ栄えを点数にします。100点からマイナス100点。200点の幅がある。スタートホールでパーと仮定する。ただ、内容はバーディーチャンスを逃したものと、チップインのパーでは、結果は同じでも心の動きが違う。統計をとってみると5パターンぐらいにわかれる。シングルプレーヤーは一度、ガクーンと落ち込んでも、急上昇するパターンが多い。これが、渋野日向子さんで一般に浸透したバウンスバックです。人間ですから、気持ちが落ち込むことは悪いことではない。その時にどう跳ね返すか。何で跳ね返ることができたのか。処方箋をつくるお手伝いをいたします。だから、一緒にラウンドする。初心者には、プレーなどのデモンストレーションや、ルーティンを私が見せることで、ご自分のリズムをつくるお手伝い」と説明を加えている。

　昨年12月、LPGAアワード。ティーチャー・オブ・ザ・イヤー清元登子賞の受賞で、「アマチュアゴルファーの皆さまへ、アドバイスをひとつ。喜怒哀楽を5秒でリセットすることが大事です。渋野さんのように、笑顔をきっかけにするといいでしょう」とスピーチを思い出す。かつて、ゴルフで幸せになる－と誓っている。ばくぜんとしたテーマが、少しずつ見えてきた。　

　きりばやし・ひろみ　1964年東京都葛飾区出身。日本女子大学家政学部卒業。大学卒業後、ゴルフを始める。プロゴルファーを目指しウイングフィールドゴルフクラブへ研修生として入社。その後、サンヒルズカントリークラブの関連事業所でレッスン活動を開始する。2005年筑波大学大学院修士課を終了。メンタルとテクニカルのスキルを融合したレッスンプログラム、プロジェクトGを展開する。JLPGAティーチングプロフェッショナル会員A級、JLPGAジュニアゴルフコーチ。