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2017.12.27

LPGAスペシャル 馬渕明子館長をたずねて② 

<Photo:Ken Ishii/Getty Images>

 2018年1月28日まで、東京・国立西洋美術館では『北斎とジャポニスム』が開催されている。LPGA会長・小林浩美は余暇を楽しむために複数回、会場へ足を運んだ。「何回、拝見しても圧倒されます。パワーの源は、いったい…」と舌を巻く。実は、この企画展、馬渕明子館長が10年前から温め、4年の準備を重ねて実現したものだった。

 馬渕「ご覧くださったそうですね。ありがとうございます」

 小林「葛飾北斎は、世界中で展覧会が行われています。今回、拝見し、驚いたことは、こんな見せ方があった…。感服いたしました。対比することで、一目瞭然です。まさに、北斎とジャポニスムでした」

 馬渕「ジャポニスムには、いろいろなレベルがあります。最もわかりやすいものは、模写をそのまま展示する。お皿へ模写をそのまま焼き付けた作品などを見れば、本当にわかりやすい。ただし、ジャポニスムは、見ただけでそっくりか-といえば、そうともいえません。作品は、表現方法、エッセンスのようなものを画家、美術家が消化して表したものです。北斎から影響を受け、西洋の人々が独自に解釈をした。その間には、ワンクッション、ツークッションあったのか…。そんなことがわかる、作品もご覧いただきたいと思いました」

 小林「なるほど、ジャポニスムは奥が深い。誰もが知っているモネ、ゴッホ、ドガが、こんなふうにして北斎を取り込んだ-個人的に、とてもわかりやすかった。目からうろこが落ちた気持ちです」

 馬渕「そうはいっても、影響のレベルを第三者が図ることは、難しい。オリジナリティーを出したいと思うことが、画家の本分です。おのおの、プライドもある。アイデアだけを取り込んで、自分でそしゃくし、新しいものをつくる。私は、北斎を参考にしました、という画家はいません。鑑賞する方は、そこをご理解いただきたいですね」

 小林「私たち、プロゴルファーが、ライバルからテクニックを見て、盗むことと同様ですね。今回、これがジャポニスムだ、と感じたことは、構図でした。北斎以前、西洋では木が真ん中に来るものは、なかった気がします。北斎にはあったけど…」

 馬渕「ジャポニスムの対比だけを目的にすれば、典型的な作品を展示し、説明するのがいい。でも、それをすると、展覧会としては美しくありません。重たい印象を受ける油絵を持ち込んだりすると、せっかくの展覧会もぶち壊しになりそうだったから。そのあたりの見せ方が、最も苦労したところです」

 小林「わかります。展覧会は、学校の授業ではない。説明ばかりになると、鑑賞者がちょっと疲れてしまう」

 馬渕「あくまでも、見ている方が、楽しくないといけません。感性に訴えたい。それが展覧会。私も、館内を歩きながら、それとなく、お客さまの声を聞くようにしている。十人十色で、いろいろな感想がございますね」

 小林「北斎は子どもの頃から、知っていました。でも、興味深く拝見するようになったのは、ずっと年月が経ってからです。長野県の小布施へ出かけたことがきっかけでした。そこには、最晩年に描いた作品があり、圧倒されました。同時に、北斎の人となりをうかがい、ますます興味がわいてきて。目覚めて、最初にすることは、生涯で手本にした絵があり、一日は模写からはじまったなんて、信じられない。描くことだけを、亡くなるまでやり通すことができたのは、なぜでしょうか。尊敬している、のひとことではとてもすみません。追及し続けることが素晴らしい。真のプロフェッショナルだと思います」

 馬渕「寝食を忘れて、描き続けた。ストイックだといわれている北斎は、道を究める目標より、勝手に手が動いてしまうのではないか。私は、そう思っている。毎日、絵を描きたくて、描きたくて仕方がなかった。自身の自然体は、おそらくそんな感じだったのでしょう」

 小林「また、北斎は自身が生涯描いたスケッチを漫画として残していますね。展覧会にもあった北斎漫画。あの本はとてもいい。後進へ指導もしていたといいます。テキストを残し、技術を惜しげもなく分け与えている。懐も深い」

 馬渕「そうですね。隠さないで、すべてを教えてしまう。それだけの度量がある人は、なかなかいないでしょうね。一方で、あれほど稼いでいながら、ずっとずっと質素。お金はどこへ消えたのだろう。みんなが不思議に思う謎…」

 小林「話はまったく変わりますけど、アスリートと美術。ちょっと、距離がある印象を受けますね」

 馬渕「アスリートは、時間の制約があるからでしょう。JFAでは、最高顧問の川淵三郎さんが、お孫さんをお連れになって、よく美術館へいらっしゃいます。個人的にいうと、違う世界を知ることも、大切。非日常は、脳を活性化させますよ。いろいろな発想がわいてくるかもしれません。まぁ、そんな目的よりも、ただ単に、楽しいと感じるだけで、心が豊かになるはずです。でも、スポーツを普段、職業にしている人、スポーツを一生懸命やっている人は、混雑している展覧会は避けたほうが無難かもしれない。人気の展覧会は入場まで、何時間も並ぶことがある。疲れてしまいます。せっかく、足を向けても、イヤになってはせっかくのチャンスも、水の泡。その点、各美術館には、常設展も開催している。こちらはゆっくり鑑賞できます。お気に入りの作品をみつけ、座ってご覧になれることもできる。皆さん、お待ちしています」

 葛飾北斎は、この1000年間、偉大な業績をあげた世界の人物100人に選出された、唯一の日本人。ヨーロッパでは、19世紀最大のアーティストとしてより高い評価を受けている。

                             =つづく


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